合格体験記?

2006年10月9日
合格体験記の続きを書くことにする。
新司法試験受験生の読者のお役に立てれば幸いです(いるのか…?)

1 短答式試験の勉強法
短答式試験プロパーの対策として行ったのは、直前期(4月初めから試験前日まで)に判例六法(有斐閣)を2回ほど素読しただけです。
今振り返ってみると、1期生の間で行われていた短答式試験対策として、?各予備校の問題を数多くこなす、?短答用六法(例えばLECが出している完択など)を読むなどをしている人が多かったように思います。しかし、これらの勉強法には下記のような問題点があるように感じ、私はとりませんでした。
まず、?については、予備校の問題を数多くこなしたところで、どうしても穴ができるのは避けられないし、そもそも予備校の問題の質が必ずしもいいとも思えません。また、問題の中には既に十分理解しているものも含まれているのですから、それについて解いている時間がもったいないと思うのです。直前期は想像していた以上に時間がありません。必修7科目に加え、選択科目についてまで、短答だけでなく論文についても実力、感覚を衰えさせることなく維持し続けることは、想像以上に大変なことなのです。短答ばかりに時間を割いていられません。
次に、?については、短答式試験が7法全てについてあるのに、その全てについて短答六法を読むのは著しく時間がかかり、現実的ではないと思います。また、新司法試験は短答と論文が一緒に行われ、短答六法では論文対策として不十分である(短答六法は知識(結論)が集約されているが、読む側はそれを暗記するだけになってしまう)から、他に論文用に基本書などを読まなければなりません。基本書には当然短答六法に記載されているような事項は書かれているわけですから、初めから基本書だけを読めば、論文対策にもなり一石二鳥なわけです。短答六法が旧試験で通用したのは、短答が上3科目のみで、かつ論文式試験と日程が別であったため、短答の勉強のみに集中できる時間的余裕があったからだと思います。
そこで私がとった勉強方法は、有斐閣の判例六法を素読するというものでした。過去問(プレテストや第一回新司法試験)を見てみると、短答式試験では条文の知識そのものや基本的な判例の知識が多く問われていることがわかります。しかし、論文対策で基本書を読むだけでは、どうしてもこれらの部分がおろそかになりがちです(基本書では単純な条文知識などは省かれていることもあるし、読者の側は論点ばかりに目がいってしまう)。そこで、判例六法で条文と判例を意識的に読む必要があるのです。また、特に訴訟法は、条文を素読することで、手続の流れを改めて意識したりと、収穫があるはずです。
それに、判例六法素読の効能は、ただ短答式試験に役立つというだけではありません。判例六法を読むことで、条文の知識はもとより、条文の解釈である論点や、判例の記憶を喚起することができ、論文の実力を維持することにも役立ちます。私は各科目をまとめたノートのような便利なものを作っていなかったので、短時間で復習するツールとしても判例六法を利用しました。加えて、論点がどの条文の文言の解釈であるか、ということを改めて意識することができるので、ただ論点を書く、といういわゆる論点主義的な答案にもならずに済みます。
ところで、私が有斐閣の判例六法をお薦めするのは、判例の要約記載が他の判例六法に比べて詳細なためです。これは短答に限らないのですが、膨大な知識をただ記憶するのではすぐに抜け落ちてしまいますが、常に理由をつけながら覚えれば、知識を抜け落ちにくいものとすることができますし、結論を忘れても理由をきちんと理解してさえいれば、その場で、自分の頭で結論を導けるものです。他社の判例六法は結論の記載だけに終わってしまうので、どういう理由でこの結論になったのかよくわからず、記憶に残りにくいのですが、有斐閣のものは前述の通り比較的記載が詳細なので、記憶に残りやすいということで選びました。ただ、有斐閣の判例六法の記載が詳しいとはいえ、所詮は判例六法ですから、その記載だけでは内容が良くわからないものも当然多いです。したがって、普段から基本的な判例は百選などでしっかり押さえておく必要があります。また、判例六法が択一六法を読むよりもボリュームが少なくて済むとはいえ、該当科目を全て読もうとすると、依然として相当な分量になってしまいます。そこで、読む判例を過去に百選や重判に掲載されたもの、などに限定することも一つの方法かと思います。マイナーな判例が出たのであれば、知らなくても他の受験生もわからないので、できなくてもダメージは小さいでしょうから。
以上の通り、短答式試験プロパーの勉強としては、判例六法の素読をお薦めしますが、時間配分や試験感覚を養うという面、および自分が今受験生の中でどのくらいの位置にいるのかを確かめる、という観点から、予備校の答練を何回か受けてみるというのは有意義だと思います。私は一度も予備校の答練を受験しなかったため(時間的余裕がありませんでした)、自分が受験生の中でどの位置にいるのか全くわからず、試験当日まで不安で仕方がありませんでした。これは精神衛生上極めてよろしくありません。今考えれば、時間をなんとか作って2、3度くらい受講してみればよかったと思います。ただ、予備校の答練を数多くこなすだけ、というのでは、前述のような問題点がありますから、私はお薦めできません。
その他、民法の知識に不安があれば、旧試験の過去問(肢別本で十分)を解いたり、また刑法の問題形式に不安があれば、旧試験の過去問を解くことも有意義だと思います。

2 論文式試験の勉強法
 論文式試験の勉強法について、申し訳ありませんが、私には「これをやれば必ず合格できる」、という適格なアドバイスはできません。そのような方法があればむしろ私が教えて欲しいくらいです。
 ただ、今振り返ってどうして合格できたのかと考えてみると、それは法科大学院の授業にしっかりと取り組んだからではないかと思います。
 法科大学院の授業は、判例学習をベースに、法的思考能力を育てることが目的であるように思います。そのため、授業を受けるだけでは知識量は増えないので、受験生は自分に力がついたことを実感しづらく、法科大学院の授業に疑問を持ち、予備校の講座などに足繁く通い、予備校が出版している本(予備校本)を必死に読んで知識を蓄えたりして、法科大学院の授業は疎かにしがちです。しかし、そこに大きな問題があるように思います。
確かに、司法試験に合格するためにはそれなりの知識は必要です。前述の通り法科大学院の授業が知識習得を目的とするものではないこと、及び法科大学院のカリキュラムで全てを網羅することは不可能ですから、受験勉強として基本書を読むなり授業では足りない部分は自分で補う必要があります。これは当然のことです。しかし、知識を習得するにも、前提として法的思考能力がなければ、文献の記載の正しい意味をつかむことが出来ず、結局は正確な知識さえも習得できません。しかも、予備校本は学者の先生方の本を適当に抜粋しているだけなので、筋が通っておらず、その整合性に問題がありますし、それらを読んだところで法的思考能力も、正確な知識も身につきません。また、知識は法的思考能力があって初めて有効に活用できるものです。ただの知識など何の役に立つというのでしょうか。
この法的思考力及びそれに基づく正確な理解の有無は、答案の出来にも大きく表れます。そもそも、法的思考力がなければ、論理的な文章は書けません。また、新司法試験は旧試験と異なり、分量的にも詳細な記述が要求されるため、ある争点についての記載についても自分の頭で考えることなくただ覚えただけの答案では論証に説得力が欠け、ボロがでてしまいます。逆に、新司法試験では事案の分析も要求されるため、前提論点などはなるべく簡潔な記述にとどめ、事案を分析する時間とスペースを確保するべきですが、簡潔な記述をするためには、正確な理解がなければうまく要約すらもできないのです。また、法的思考能力があることで、未知の問題に対しても(ほとんどが未知の問題だと思いますが)、現場で考えてそれなりの答案を書いて帰ってこれるのだと思います。
 このように、法科大学院の授業をしっかりと受講することで、法的思考能力を地道に高めていくことが、結局は司法試験の合格への一番の近道なのではないかと思います。
 法科大学院の授業を受けるにあたっては、私は予習に力をいれ、授業はむしろ復習・確認という位置づけで受講していました。予習の際には、ありきたりですが、該当部分の基本書をしっかり読み、関連する判例・評釈を読み、事案の当事者であればどのような主張をするかを考える、という作業を手を抜かずにやりました。
 その他、論文式試験対策として、問題を解いて書く訓練をすることも当然有意義だと思います。よく何人かで集まり、ゼミを組んでやっている人を見かけました。自分一人ではなかなか意思が弱くて続かないという人や、他人に自分の答案を見てもらいたい、という人には良い方法だと思います。問題演習の素材としては、教授の先生方が作ってくださった法科大学院の定期試験の問題などがいいと思いますが、その他学者の先生方が出している市販の本などで役立ちそうなものを使ってもいいと思います。予備校の答練は、やはり学者の先生等が練りに練った問題には到底及ばないので、問題の質としてはどうかと思いますが、時間内に答案を書く訓練、及び勉強のペースメーカーにする、というように割り切って利用するのであれば、受講してもいいのではないかと思います。ただ、予備校の成績はまったくあてにならない(そもそも問題が本試験とはずれている)ので、一喜一憂しないでください。
3 論文を書く際の注意点
 ここで少し話を変えて、私が論文試験を受けるに当たって注意していたことをお話します。
まず、論文を書く際には、事案の分析→問題提起を丁寧に行ってください。これをおろそかにすると、その先で論証や規範の定立などを行う意味がさっぱりわからなくなり、文章の流れは悪くなるし、また筆者の理解に疑問が生じてしまいます。逆に問題提起がしっかりなされていると、読み手は「筆者はきちんと理解して書いているのだな」、と安心感をもって読めます(理解があることの推定が働くと言ってもいいかもしれません)。
次に、前述の通り、前提論証は極力短く、端的にすべきです。どうせたいした配点はないでしょうし、他に書くこともいっぱいあります。逆に答案のバランス・流れも悪くなるくらいです。加えて、既に答案構成で相当の時間がかかっているでしょうから、余計な時間はかけたくありません。でもまったく書かないのも怖いと思ったので1,2行でさらっと書くようにしました。勉強している際にも、常に短くかつ説得的に説明するイメージをもって勉強してください。(しっかり理解していれば、いくらでも長くは書けるものです。逆に短く説得的に書く方が難しい。)
また、反対説は基本的に書かないようにしました。旧司法試験の答案を思い出すと、よく反対説を書いて批判し、自説を書くというのが多かったように思います。しかし、考えてみれば、結局は批判して否定して無にしてしまうものに大切な時間をかけるのはムダではないでしょうか。試験の目的は、その事案を解決する能力を見るものであり、他説を論破することではありません。とすれば、他説批判よりも、自説を積極的に根拠付ける理由を記載した方がよほど意味があるような気がします。なので、反対説を書くのは、?自説の積極的な理由が薄い(反対説のデメリットがゆえに自説で行くしかない、というような消極的な理由を言わざるをえないような場合)、?主張反論型(対立する立場で主張しあうような問題形式)における攻撃防御方法の一つとして、そもそも相手方の考え方の誤りを問う、というような場面に限定していました。

4 その他
 まず、前述の通り、司法試験の勉強はやらなければならないことが多すぎて、時間がありません。常に、1回でマスターする、もう2度と同じ箇所は読めないんだ、という覚悟で臨んでください。実際2度目がないことも多いと思います。
 次に、基本書などを読む際には、全体の体系を意識して読んでください。体系をしっかりと把握していれば、今学習している部分と今までに学習した部分との関連などもおのずと理解できるので理解が深まりますし、問題を解く際に問題点を発見しやすくなると思います。尚、基本書などの文献を読む際、初学者でない限りは、一読してわからなくてもすぐに諦めず、できるだけ粘ってください。初学者であれば、全体を通して読んでみてからその部分に戻ることでわかることもありますが、そうでなければさーっと飛ばしているといつまでたってもわからないで終わってしまいます。
 また、前述の短答式試験の勉強法部分でノートについて触れましたが、振り返って考えると、時間のない直前期に素早く科目を見渡せるノートがあればとても便利だと思います。ただ、ノート作りの際は、分量を作りすぎないことに気をつけなければなりません。分量が多いと結局基本書などを読むのと同じになってしまい、本末転倒です。自分の苦手分野や特に重要だと思うことの記載にとどめたり、表を多用したりキーワードの記載にとどめるなどして、短時間で見直せるようにする必要があります。直前期には基本的に学習が終わっていて、それを喚起することに目的があるのですから。

5 最後に
 以上、新司法試験を振り返って、私の思うところを述べてきました。少しでも皆さんのお役に立てれば光栄です。
 新司法試験の問題は難しいですが、あくまでも相対評価ですから、法科大学院の授業に沿いつつ、足りない部分は基本書や判例を自習するなど、しっかりと準備すれば十分合格できる力はつくと思います。みなさんのご検討をお祈りしています。

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